車掌の仕事はきつい?ドアを閉めるたびに緊張していた私が正直に書く

夕方の駅のホームで、停車中の電車の扉から上半身を出し、乗り降りする人の流れへ静かに目を向ける濃紺の制服姿の男性の水彩イラスト 鉄道員になる

車掌の仕事は、私の場合、きつかったです。体もきつかったですが、大きかったのは気持ちのほうでした。ドアを閉める数秒に、一人で責任を負う。その緊張は、車掌をやっている間、減ることがありませんでした。

私は駅員から車掌、運転士と進みました。本社勤務を経て、今は自分の希望で駅に戻っています。キャリアの流れ全体は、キャリアパスの記事(駅員→車掌→運転士→本社。鉄道会社のキャリアは一本道じゃなかった)に書きました。この記事では、その中の車掌の仕事だけを書きます。鉄道会社に入る前の話(試験や適性)は【倍率を突破する】現役駅員が教える、鉄道採用試験で「選ばれる人」の共通点にあります。

この記事で分かることは3つです。

  • ドアを閉めるとき、車掌の目と頭の中で何が起きているか
  • 放送と、遅れが出たとき。それぞれ何がきつかったのか
  • それでも、車掌をやってよかったこと

車掌の仕事の中身も呼び方も、会社によって違います。ここに書くのは、私ひとりがやっていた車掌の話です。ドアや放送の手順は書きません。何を見て、何を考えていたか、だけを書きます。

車掌のきつさは、一人で判断することに集まっていた

駅員のときは、小さな駅を除いて、一人ではありませんでした。分からなければ、誰かに聞けばいい。車掌は違いました。列車の中で仕事をしている乗務員は、運転士と私です。基本は、誰にも聞けませんでした。気軽に聞ける相談相手が横にいないことが、意外とプレッシャーでした。

自分で考えて、自分で判断する。精神的なきつさは、ここにありました。

その「一人」がいちばん濃くなる場面は、3つありました。

  • ドアを閉める瞬間
  • 放送する瞬間
  • 遅れが出たとき

この3つを、順に書きます。

車掌のきつさは、体力の話だと思っていませんでしたか。そう思うのが自然です。私も、なってみるまで分かりませんでした。体もきつかったです。ただ、それ以上に残っているのは、気持ちのほうです。

ドアを閉める前も、閉めた後も、動き出してからも、目を離せなかった

キャリアパスの記事で、「お客様を怪我させてはいけない」と書きました。その気持ちの中身は、ドアを閉める前後の数秒に全部詰まっていました。

先に、初めて一人で乗務した日の話をします。

それまでは、指導してくれた先輩と一緒に乗っていました。初めて一人になる前の夜も当日の朝も、特別なことはしていません。ただただ、初めて乗るんだな、という感覚がありました。とても緊張していたことを覚えています。頭にあったのは、一人で乗って、安全に乗務して、仕事を終えること。それだけです。

一人になって、思いました。「こんなにも乗務員室って広いんだ…」。

広さの正体は、頼れる人が横にいない心細さでした。そのとき、「一人で仕事しているんだ!」と思いました。乗務が終わって浮かんだ言葉は、「やっと終わった」です。

ドアを閉めるとき、目はどこにあったか。3段階に分けて書きます。

  • 閉める前:ホームの上の、お客様の状況
  • 閉めた後:ドアに荷物が挟まっていないか
  • 動き出してから:車両に向かって倒れかけてくる人がいないか

それぞれ異常がなければ、確認できた。そう判断していました。目線は、常にキョロキョロ。周囲を見渡していました。

少しでも異常があれば、すぐに電車を止める。その気概は、常に持っていました。危ないと思ったら止める。それが基本だったので、迷いはありませんでした。安全のために電車を止める場面は、たくさんありました。

ひやっとしたのは、駆け込み乗車です。見えていないところから、人が突然、猛スピードで出てくる。ただただ怖かったです。

そのあと思ったのは、引き続き注意しながら見よう、でした。駆け込みだけは、私には変えられません。だから、何かあったらすぐ対応できるようにしていました。

ミスをしたらどうしよう、と怖くありませんか。怖くていいです。私の場合、その怖さは、車掌をやっている間、ずっと味方でした。責任のある仕事だから、その責任を全うしなければ。そう思って乗っていました。

ドアを閉める数秒に、その「一人」が全部詰まっていました。

放送は苦手だった。よく噛んで、声も大きすぎた

放送は苦手でした。いろいろな人から指摘されました。

とにかく、よく噛みました。声量が大きすぎて耳が痛い、と同僚に言われました。当時は、少し悔しかった気持ちがありました。

やったのは、これです。

  • 指導してくれた先輩から教わったやり方とマニュアルを、そのままマネする
  • マイクを少し離して話す

マネをして変わったのは、気持ちでした。「これでやればいい」。そう思える指針ができた。その指針に従ってやることで、安心してできるようになりました。

放送を聞いたお客様の反応で、覚えているものはありません。

人前で話すのが苦手なら、放送が不安ではありませんか。私は、放送が苦手でした。私の場合、教わったやり方を、そのままマネしました。指針があれば、安心してできました。

遅れが出たとき、きつかったのは何を言えばいいか分からない時間だった

キャリアパスの記事で、「異常事態が起きたときはまったくダメでした」と書きました。「ダメ」の中身は、こうです。目の前にお客様がいる焦りと、情報をどう伝えればいいか整理できない混乱でした。

よくあるのは、入ってくる情報がこう変わるループです。

「この電車は動く」→「でも、動いても隣の駅まで」→「もう一度確認したら、やっぱり動かない」

これで混乱したことが多かったです。情報は、全部一気に来ます。何があれば楽だったか。今思っても、ないと思います。一つ一つ片付けていくのが、いちばん早い。そう思っています。

そのころ、頭の中にあった言葉は「あー、今日もうまく放送や案内ができなかった…」でした。

ただ、翌日まで引きずることはありませんでした。ここをやれば改善する、というのをその場で考えて、次に実行する。それで切り替えていました。

怒られたらどうしよう、と考えていませんか。私の場合、車掌のときにお客様から強く言われることは、そこまでありませんでした。それより残っているのは、何を言えばいいか分からずに混乱した時間のほうです。

分からない時間は、場数でしか埋まりませんでした。悔やんで、直すところを決めて、次に乗る。私の場合は、その繰り返しでした。

慣れていい緊張と、消してはいけない緊張を分けていた

ドアを閉める緊張は、最後まで減りませんでした。それだけ責任の重い仕事をしている。そう思いながら、仕事をしていました。

ただ、緊張を全部同じに扱っていたわけではありません。自分の中で、2つに分けていました。

  • 慣れていい緊張:「今日も一人の車掌として、安全に乗務するぞ」という気持ち
  • 消してはいけない緊張:ドアの開け閉めでお客様自身や荷物を挟んで、怪我をさせてしまってはいけないという気持ち

後者は、消してはいけないほうでした。

生活リズムでいえば、早朝や深夜の乗務がありました。泊まり勤務そのものについては泊まり勤務はきつい。それでも続けられている私の、眠れない夜との付き合い方に書いたので、ここでは書きません。

駅員のきつさとは、種類が違いました。どちらがきついかではなく、種類が違う。そうとしか言えません。駅員のきつさは駅員の仕事はきつい?現役が「きつさの正体」と乗り越え方を正直に書くに書きました。

私の場合、全部がきついままではありませんでした。全部に慣れたわけでもありません。

車掌をやってよかったこと。手を振る子どもと、何も起きない一日

やってよかったことは、小さい子どもから手を振られたことです。とてもうれしかったです。

車掌のときは、電車が動き出してからでした。私は基本、手を振り返していました。駅員のときにも同じことがあって、キャリアパスの記事に書きました。うれしさは、駅員のときと同じです。

業務的なことで、うれしいことはありませんでした。ただただ、安全に目的地までお客様を運ぶだけ。そう思っていました。何も起きないことが、当たり前。その当たり前のために、自分の仕事を全うしていた。今は、それをうれしいと思います。

乗務が終わって電車を降りるとき、「今日も無事に終わった」。言葉というより感覚として、今も残っています。

きつい話ばかりで、不安が増えていませんか。増えて当然です。それでも私は、車掌をやったことを後悔していません。なかなかできる体験ではないですし、少し特殊な仕事だと思います。経験したことで、自分の知見が広がったと思っています。

これから車掌を目指すあなたへ。「きつい?」と聞かれたら

「きつい?」と聞かれたら、こう答えます。きついと思います。特に、精神的にきつい部分があります。

仕事中は、常に一人で乗務していました。そんな中で、一つ一つを確実にできる人。自分で自分を律せる人。そういう人が向いていると、私は思います。私が見た範囲での話です。

私の場合は、常に車内と車外を見て、「危険なところはないか」とアンテナを張っていました。

自分には無理かも、と思いましたか。最初は、誰でもできません。自分との小さな約束を守っていけば、できるようになる。私はそう思っています。私も仕事に就く前は、だらしなく遅刻もしていました。今はもうしません。生活習慣を、少しずつ変えていけばいいです。

自分に向いているかを考えたいなら、駅員について書いた駅員に向いてない人はいる?現役駅員が感じた「しんどくなりやすい4つの癖」も材料になります。

今日やってほしいことを、1つだけ。

次に乗った電車が遅れたら、自分が車掌だとして、放送の文案を1つ作ってみてください。順番は、こうです。

  • 今、何が起きているかを冷静に見る
  • 車掌なら何をすればいいか、考える
  • 放送の文案を作る

頭の中だけでできます。できなくても、次に遅れたときにまた考えればいいです。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。何も起きない一日を、当たり前にする。車掌の仕事は、私にとってそういう仕事でした。

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この記事は個人の体験です。心や体の不調が続く場合は、我慢せず身近な人や専門家に相談してください。

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