私が休職を家族に伝えられたのは、朝、体が動かなくなってからでした。
自分から切り出したのではありません。動けなくなって、言うしかなくなっただけです。
ところが、あとから分かったことがあります。妻は、私が倒れるずっと前から気づいていました。「もう会社に行かなくていいんじゃないか」。そう言われていたのに、私が聞き流していたんです。
この記事では、妻・子ども・実家の3つについて正直に書きます。何が怖くて言えなかったのか。言ったあと、家の中で何が起きたのか。そして、言わなかった相手のことも書きます。
いま家族に言えずにいるなら、たぶんあなたの家族も、もう気づいています。
いちばん怖かったのは「休みなさい」と言われることだった
家族に言うのが怖かった理由は、怒られることではありません。
いちばん怖かったのは、「あなたは病気なんだから休みなさい」と言われることでした。
変な話に聞こえるかもしれません。心配してもらえるなら、ありがたいはずです。それでも当時の私には、その言葉が怖かった。
理由ははっきりしています。私の頭の中に、こんな思い込みがあったからです。
仕事を休む=家にいても価値がない=自分に価値がない。
だから「休みなさい」は、私にとって優しい言葉ではありませんでした。「あなたはもう戦力じゃない」と宣告されるように感じていたんです。
家族に言えない人の多くは、責められるのが怖いのだと思われがちです。でも実際は違うかもしれません。優しくされることのほうが怖い。休んでいい、と認められた瞬間に、自分の価値が消える気がする。私はそうでした。
お金や職場のことも含めた「3つの怖い」については、仕事で心が折れた。鉄道員の私が半年の休職を決めるまでに書いています。
言えなかったけれど、妻はとっくに気づいていた
私が黙っている間、妻は見ていました。
「もう行かなくていいんじゃないか」。倒れる前から、そう言われていたんです。私は「大丈夫」と返していました。大丈夫ではなかったのに。
あとから知ったのですが、妻にも心の不調で苦しんだ時期がありました。だから私の様子を見て、早い段階で「これはまずい」と分かっていたようです。
ここで鉄道の話をひとつ。電車が急に止まると、車内アナウンスが入ります。「ただいま安全確認のため停車しております」。理由が分かると、乗っているお客さんは落ち着きます。
ただ、アナウンスがなくても、乗っている人は電車が止まっていることには気づいています。分からないのは理由だけです。
家族も同じでした。私が何も言わなくても、止まっていることは伝わっていた。妻が知らなかったのは理由だけだったんです。
隠せていると思っているのは、たいてい本人だけです。これは、いま言えずにいる人にとって、悪い知らせではないと思います。ゼロから説明する必要はない、ということですから。
倒れた朝、「しわくちゃ」だった私に妻が言ったこと
朝、目が覚めたら足に力が入りませんでした。涙が止まらず、食欲もありません。
あのときの感覚を言葉にすると、もう何もかもがしわくちゃでした。自分でもどうしていいか分からない。頭も気持ちも、くしゃっと丸めた紙みたいになっていました。
そのときに妻が言ったのは、短い一言です。
「とにかく病院に行きなさい」
説得も、説教もありませんでした。すぐに、とにかくその日のうちに診てもらえる病院を探して、受診しました。そこから休職が決まり、結果として半年休むことになりました。この続きは第1話に書いたとおりです。
いま振り返ると、あの朝の私は自分では何ひとつ判断できませんでした。決めたのは私ではなく、妻の一言です。だから、家族に伝えるのは「相談」だけが目的ではないと思っています。判断できなくなったときに、代わりに判断してくれる人を先に作っておく。そういう意味もあります。
後ろめたさは消えなかった。それでも「ここにいてもいいんだ」
休職が始まって、私は平日の昼間に家にいるようになりました。
正直に書きます。後ろめたさはありました。みんなが働いている時間に、自分だけ家にいる。妻に生活を支えてもらっている。その感覚は、休んでいる間ずっと消えませんでした。
そのうえで、もうひとつ本当のことがあります。
ここにいてもいいんだ。そう思えたことが、嬉しかったんです。
この2つは矛盾していません。両方あったのが本当のところです。後ろめたいのに、ほっとしている。休職中の気持ちは、きれいに片づきません。
だから正直に言うと、「休めば後ろめたさは消えますよ」とは言えません。私の場合、それは最後まで残りました。ただ、「休む=価値がない」という思い込みのほうは外れました。家の中に、私の居場所はちゃんとあったんです。
お金の不安については数字を出して第2話に書きました。家族に話すときは、収入の見通しを1つ用意しておくと、相手も落ち着きやすいです。
子どもには、何も説明しませんでした
上の子にも下の子にも、私は休職の説明をしていません。
今まで通り接しました。病気のことも、会社のことも話していません。子どもに何と言うかで悩んでいる人には、拍子抜けかもしれません。
慣れてきた頃には、こんな生活をしていました。朝、子どもたちとほぼ同じ時間に家を出る。外で時間を過ごして、子どもたちが家にいる時間に帰ってくる。
これは、病院の先生や臨床心理士さんと話して、「日中の生活リズムを整えたほうがいい」と言われていたからです。休職していることを、子どもの生活から見えにくくしたい気持ちも、たぶんありました。
説明しないのが正解だと言うつもりはありません。年齢も家庭の事情も違います。ただ、「説明しない」も選択肢のひとつです。子どもにどう話すかが決まらないせいで、休むこと自体が止まっているなら、そこは後回しにしていいと思います。
実家には言いませんでした。伝える相手は選んでいい
実家には伝えていません。
私が伝えたのは、ごく少数です。妻、病院の先生、職場の上司。それに、当時カウンセリングを受けていた臨床心理士(心の状態を専門に見る国家資格の専門職)。この人たちだけでした。
家族全員に言わなければいけない、というルールはありません。親に知られたくないなら、言わなくていいんです。
伝える相手は、心配してくれる人ではなく、役割がある人を選べば足ります。生活を支えてくれる人、治療する人、仕事を調整する人。この考え方は「休職したい」が言い出せないにも書きました。
言う相手を減らすのは、隠すこととは違います。回復に必要な人だけに絞る、ということです。
伝えるときに大事なのは、変なプライドを持たないこと
家族に伝えるときのコツを1つだけ挙げるなら、これです。
変なプライドを持たないこと。
「自分が自分が」と思っていると、崩れます。私はそうでした。自分が稼がないと、自分がやらないと、自分が抜けたら。全部「自分が」でした。その結果、動けなくなるまで誰にも言えなかったんです。
うまい言い方を用意する必要はありません。ありのままを言って、受け入れてもらう。それが、いちばん強いやり方だと思います。
しんどい。うまくいっていない。それだけで足ります。
まとめ:今日やってほしいこと
今日やってほしいことは、1つだけです。
家族に伝える最初の一言を、口に出さずに紙に1行書いてみてください。
「最近しんどい」でも、「病院に行こうと思う」でもかまいません。かかる時間は1分です。書くだけなので、まだ誰にも伝わりません。紙に1行残せたら、それで今日の分は達成です。
そして、もう朝起き上がれない、涙が止まらない、食べられない。そこまで来ているなら、順番が違います。家族に伝えるより先に、病院へ行ってください。
あなたの家族は、たぶんもう気づいています。あとは理由を伝えるだけです。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。今日は書くだけで大丈夫です。声にするのは、また今度で間に合います。
出発進行!
▼休職・復職の記事は、こちらに全部まとめています
休職から復職までの地図。いまのあなたが読む1本が見つかります
ここに書いたのは筆者一人の体験です。回復のしかたには個人差があります。休むかどうか、家族や職場にいつ誰に伝えるかの判断は、必ず主治医・産業医の指示に従ってください。

