私が上司に最初に言えたのは、「休職したい」ではありませんでした。
「仕事のやり方で分からないところがあるので、相談したいです」。その趣旨の、たった一言です。
しんどいという話ですらありません。ただの仕事の相談です。それでも、そこから流れが変わりました。
最初の一言に「休職したい」を選ぼうとすると、たぶん言えません。いちばん重い言葉から始めようとしているからです。もっと軽い言葉から始めて大丈夫です。
この記事では3つのことを書きます。なぜその一言すら言えなかったのか。どうやって言えたのか。そして、言ったあとに何が起きたのか。最後のところは正直に書きます。話したらスッキリしましたが、それで治ったわけではありませんでした。
「休職したい」から始めようとすると、言えない
言い出せないのは、気持ちが弱いからではありません。
「休職したい」は、口に出した瞬間に全部が決まってしまう言葉です。だから声にならない。私を止めていたのは、3つでした。
ひとつ目は、人からどう見られるかです。「この人、休んだんだ」と思われたくありませんでした。
ふたつ目は、キャリアです。それまで仕事中心で生きてきました。積み上げてきたものがなくなるんじゃないか。それがとても不安でした。
三つ目は、迷惑をかけることです。自分が抜けたら同僚に負担がいく。家族にも心配をかける。そう思うと、余計に言えませんでした。
「休むって言ったら、サボりだと思われる」。そう感じている人は、たぶん正しいです。実際にそう思う人はいるかもしれません。ただ、黙っている間も、体のほうは待ってくれません。
なお、お金のこと・戻れるかどうかの不安については、休職を決めるまでを書いた記事仕事で心が折れた。鉄道員の私が半年の休職を決めるまでにまとめています。
上司の隣に30分座っていても、言えなかった
いちばん覚えているのは、出先での仕事が終わって、上司と同じ列車で会社へ帰ったときのことです。
時間にして30分ほど。横に並んで座っていました。車内には他のお客さんもいます。
言おうか、やめようか。頭の中でそればかり考えていました。心臓はバクバクしています。言おう言おうと思うのに、何もできない。ただただ体が縮こまっていました。
隣にいるのに、届かない。30分は、そのまま終わりました。
電車を降りたあとの道で、やっと一言だけ言えた
言えたのは、電車を降りたあとでした。
駅を出て、会社へ戻る道を二人きりで歩いているときです。「言わなければ始まらない」。頭に浮かんだのは、それだけでした。立派な決意ではありません。このままでは何も変わらないと分かってしまったので、勇気を持って一言だけ伝えました。
伝えたのは、仕事のやり方で分からないことがあるので相談したい、という趣旨のことです。休職の「き」の字も出していません。しんどいとも言っていません。それ以上の言葉は、そのとき私には持てませんでした。
それでも、上司は時間を取ってくれました。何が不安なのか。どうしたらいいのか。そういう話に乗ってくれたんです。
話したあと、すごくスッキリしました。
自分でも意外でした。何かが解決したわけではありません。仕事が減ったわけでも、休みが決まったわけでもない。それなのに、体が軽くなったんです。
そのとき気づきました。話しただけで、何かが変わっていくんだ、と。
鉄道の現場に、指差喚呼(しさかんこ)という確認方法があります。信号や計器を指でさして、声に出して確認する動作です。頭の中で分かっていても、それでは確認したことになりません。指をさして、声に出す。そこまでやって初めて、確認になります。
相談も同じでした。頭の中でどれだけ考えても、外には一ミリも出ていません。声にして初めて、状況が動きはじめます。
それでも2週間後、朝起きたら足に力が入らなかった
ここからは、あまり書きたくないことを書きます。
あの一言のあとも、私の症状は進みました。相談から2週間ほど経った朝、目が覚めたら足に力が入りませんでした。涙が止まらず、食欲も完全になくなっていました。
相談は魔法ではありません。話してスッキリしても、病気は病気として進みます。ここを隠して「相談したら楽になりますよ」と書くのは、嘘になります。
ただ、あの一言があったから助かったこともあります。
動けなくなったとき、私は一人ではありませんでした。家族に相談し、当時カウンセリングを受けていた臨床心理士(心の状態を専門に見る国家資格の専門職)にも相談しました。そこで「病院に行きなさい」と言われて、ようやく受診しました。
そこから先は、第1話に書いたとおりです。医師に「これは病気だから休みなさい」と言われて、私は休職を決めました。
休職は、私が最初から狙って言い出したものではありません。仕事の相談から始まった流れの先に、結果としてあったものです。あのとき何も言わずにいたら、動けなくなった朝、誰にどう説明すればいいのか分からなかったはずです。
話す相手は、一人に絞らなくていい
私を支えたのは、上司ひとりではありませんでした。
上司、家族、臨床心理士、そして医師。振り返ると、この4者がいました。役割はそれぞれ違います。
- 上司にできるのは、仕事の量や進め方を調整すること
- 家族にできるのは、生活と気持ちを支えること
- 臨床心理士にできるのは、話を整理して次の行き先を示すこと
- 体と心を治すのは、医師の仕事
上司に話しても病気は治りません。逆に、医師は職場の仕事量を変えられません。だから、一人に全部を期待しなくていいんです。
言いやすい人が上司じゃないなら、それでもかまいません。家族でも、友人でも、社外の窓口でも。とにかく一人目に話す。それだけで次の相手が見えてきます。
まとめ:今日やってほしいこと
今日やってほしいことは、1つだけです。
入り口になる一言を、言いやすい人にひとつだけ言ってみてください。
「相談したいことがあります」でも、「ちょっといいですか」でもかまいません。仕事のやり方の話から入っても大丈夫です。本題から始めなくていいんです。かかる時間は10秒です。
ただし、もう朝起き上がれない、涙が止まらない、食べられない。そこまで来ているなら、順番が違います。相談より先に病院へ行ってください。
最後に、あのときの自分に言いたいことを書いておきます。
休むことは悪いことではありません。仕事と自分の健康、どっちが大事なのか。そこを考えて、言いなさい。自分を大切にできない人は、家族も仕事も大切にできません。
困ったら、まずは言ってみる。言ったらどうにかなるものだから、まずは言ってみよう。
不安だったら、違う人にも話してみていいよ。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。今日は言えなくても大丈夫です。その一言は、明日の自分に持たせてあげてください。
出発進行!
休職→復職シリーズ
- 第1話 仕事で心が折れた。鉄道員の私が半年の休職を決めるまで
- 第2話 休職したらお金はどうなる?傷病手当金でいくら入ったかを正直に書く
- 第3話 休職中、何もできない自分を責めていた。半年間の過ごし方を正直に書く
- 第4話 「また折れるかも」を抱えたまま 駅員に戻った私の復職のリアル
ここに書いたのは筆者一人の体験です。回復のしかたには個人差があります。休むかどうか、いつ誰に相談するかの判断は、必ず主治医・産業医の指示に従ってください。
