結論から書きます。鉄道会社のキャリアは、駅員から運転士へ上がっていく一本道ではありません。
私は駅員から始めて、車掌、運転士、そして本社の企画部門へ進みました。そのあと、自分の希望で駅員に戻っています。出世の話ではなく、行って、戻ってきた話です。
この記事で分かるのは3つです。
- 駅員・車掌・運転士で、何がどう変わるのか
- 次の職種に進む道は、ひとつではないこと
- 現場も本社も経験した今、思っていること
鉄道会社に入りたいけれど、入ったあとどうなるのかが見えない。そう思っていませんか。見えなくて当然です。求人票にも採用ページにも、入社後にどう進むかまでは書いてありません。
入る前の話(試験や適性)は鉄道会社の採用試験にまとめました。この記事は、入ったあとの話です。なお、職種の呼び方も進み方も会社によって違います。ここに書くのは、私ひとりが通った道です。
線路は1本に見えて、途中に何度も分かれ目がある
上から見ると、線路はまっすぐ1本に伸びているように見えます。実際には、途中に分岐器(ポイント)がいくつも入っています。どちらへ進むかは、その分かれ目の手前で決まります。
鉄道会社のキャリアも同じでした。現場で進む道(駅員→車掌→運転士)があり、途中から本社(企画や管理の部門)へ進む道があります。そして、現場へ戻る道もあります。
進路を決めるのは、線路ではなく、そこを走る側です。今あなたが思い浮かべている鉄道の仕事は、たぶんそのうちの1つだけ。それでかまいません。私も入社したときは、駅員しか知りませんでした。
駅員・車掌・運転士は、同じ会社の中の別の仕事だった
同じ制服を着ていても、中身はまるで別の仕事でした。いちばん変わったのは仕事の内容ではなく、生活リズムと責任の重さです。
駅員:駅にまつわることは、何でもやる
改札、ホーム、案内、トラブル対応。駅にまつわることは何でもやりました。
新入社員のころ、お客様に「列車はまだ出ません」と案内しました。すると「『まだ』と言うなら、いつかは出るんだな」と返されたんです。
言葉の使い方に気をつけよう。そう思ったことを、今でも覚えています。
駅では事件もトラブルも起きます。そのつど一つ一つ、なんとか対応していました。初めての泊まり勤務の夜は、体力ゼロでバタンキュー。ぐっすり眠るというより、寝落ちでした。泊まり勤務との付き合い方は別の記事に書いています。
うれしかったのは、子どもから手を振られたことです。手を振り返すと「ありがとう」と言われる。それだけで、自分の中に安心感が生まれました。
何も起きない1日でも、駅員はいろいろなお客様を見ています。そこで感じたことが積み重なっていく。きつさのほうは駅員の仕事のリアルに書いたので、ここでは深追いしません。
▼駅員の1日を時刻順に書いた記事
駅員は1日、何をしている?泊まり勤務の朝から翌朝までと、日勤との違い
車掌:はじめて一人になった
車掌になって、はじめて一人で業務をするようになりました。ドアの扱いも、放送も、その場の判断も自分ひとりです。責任感が湧きました。
日々やっていたのは「安全に、安心して」。この言葉に尽きます。
とくに集中したのは、ドアの扱いでした。お客様を怪我させてはいけない。その思いがとても強くありました。
ただし、異常事態が起きたときはまったくダメでした。いつもどおりが崩れた瞬間に、経験の差が出ます。仕事の中身そのものは、やっていけば覚えます。崩れたときにどう動くかだけは、場数でしか埋まりませんでした。
▼車掌の仕事だけを深掘りした記事
車掌の仕事はきつい?ドアを閉めるたびに緊張していた私が正直に書く
運転士:後ろに何千人もの命を乗せて走る
運転席には一人で座ります。それでも、ずっと感じていたのは孤独ではありませんでした。
自分の後ろに、何千人ものお客様の命がある。その緊張感で毎日走っていました。
初めて一人で乗務した日は、今でも覚えています。前日の夜から「これからいよいよ単独で乗るんだ」と気持ちが高ぶっていました。運転席に座った瞬間に浮かんだのは、「本当にやっていくんだ」。
走り出してからは、別のことを思いました。自分の手で、この電車が動いている。こんなのすごいな。
運転士のとき、人身事故を経験しました。
本当にあっという間に時間が過ぎて、「もう二度としたくない」と思いました。詳しいことは書きません。
ただ、経験したからこそ、安全の話をするときに説得力を持たせられるようになりました。自分も落ち着いて話せます。あの経験がなければ、私の言葉はもっと軽かったはずです。
良かったことも書きます。運転士でいちばん良かったのは、季節が変わっていくのを毎日見られたことです。
始発駅は田舎で、まわりは山と田んぼでした。そこから走り出すと、進むにつれて都会のビル群の中に入っていきます。同じ景色が、春と夏と秋で違って見える。
仕事をしながら旅行している感覚でした。
一人で完結する仕事と、人と向き合う仕事。どちらが向いていそうですか。今すぐ決めなくて大丈夫です。私も、やってみるまで分かりませんでした。
全員が同じ道を通るわけではない
車掌や運転士になるときは、泊まりがけの集合研修がありました。朝から夕方までは講義。夜は分からなかったところの復習と、同期どうしの教え合いです。本当に受験生みたいな生活をしていました。
いちばんつらかったのは、今まで知らないことを頭に入れ込むこと。とくに運転士のときは車両に詳しくなかったので、一つ一つ覚えるのが大変でした。
そして、全員がこの道を通るわけではありません。
- なりたくてもなれない人がいる:募集の数と希望者の数が合わない年もあれば、健康上の理由でかなわない人もいる
- あえてならない人もいる:駅員でいたい、本社で働きたい。だから車掌・運転士には進まない
前者は正直に言ってしんどいです。努力だけではどうにもならない部分があります。それでも、そこで鉄道員としての道が終わるわけではありません。私のまわりには、いろいろなルートを進んだ人がいました。
運転士になれなかったら、鉄道員として終わり。そんな不安はありませんか。終わりではないです。
本社への異動は、ある日いきなり来た
本社への異動は、いきなり辞令で言われました。
「あ、こうなっていくんだな」。それが最初に浮かんだ言葉です。喜びも反発もありませんでした。辞令は自分では変えられません。だったら、自分のできることをやろう。今もそう思っています。
いちばん違和感があったのは服装です。ずっと制服で働いてきたのに、スーツで仕事をするようになりました。
やっていたのは、サービスに関わる仕事です。当時は気づきませんでしたが、現場に戻ってから分かったことがあります。本社の仕事って、現場の仕事がベースなんだな。現場を知っているから「こうした方がいい」「この視点で見た方がいい」と気づける。そういう場面が何度もありました。
現場だけが鉄道の仕事だと思っていませんでしたか。ダイヤも、設備も、サービスも、机の上で形になっていく部分があります。現場と本社の違いは別の記事に書きました。
そして私は、自分の希望で駅員に戻った
本社にいたころ、心の不調で半年休職しました。復職したのは企画部門で、そのあと自分から希望を出して駅に戻りました。
頭に浮かんだのは、ひとつだけです。自分は駅員になりたくて、この会社に入った。
戻った初日に思ったのは、「いよいよ駅に戻ってきたんだな」。そして久しぶりに制服に袖を通して、もうひとつ思いました。
あ、太ったな。痩せなきゃ。
企画部門にいるあいだに、体重が増えていたんです。それでも気持ちは晴れやかでした。
休職と復職のいきさつは、仕事で心が折れた。鉄道員の私が半年の休職を決めるまでから始まる4話に書いています。
一度離れたら、もう戻れない。そんなふうに感じていませんか。少なくとも私の場合は、戻れました。今も日々、現場で起きる一つ一つが勉強になっています。
覚悟しておくこと1つ、思ったより良かったこと1つ
本音で2つだけ書きます。
覚悟しておくこと=健康がいかに大事か。泊まり勤務も普通の勤務も、健康がないと何もできません。体力に自信がある人ほど、後回しにします。日々健康に生きることを大事にしてほしいです。
思ったより良かったこと=職業イメージの良さ。仕事はきついです。それでも、世間からの見え方はいい。知らない人に「駅員をやっています」「運転士をやっています」と言うと、たいてい喜ばれます。
さっき書いた、子どもに手を振られる仕事です。悪くないですよ。
これから鉄道会社を目指すあなたへ
鉄道会社のキャリアは、上がっていく一本道ではありません。分かれ目が何度もあって、本社へ進む道も、現場へ戻る道もあります。
今日やってほしいことを1つだけ。
次に電車に乗ったとき、車掌さんの動きを1駅分だけ見てみてください。2〜3分で終わります。
発車の前にどこを見ているか、どのタイミングで指をさしているか。1つでも気づけたら十分です。それは、パンフレットには載っていない、あなただけの一次情報になります。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。鉄道の仕事は、入ってからのほうがずっと長いです。だから、入ったあとの話を書きました。
出発進行!
休職→復職シリーズ(全4話)
- 第1話 仕事で心が折れた。鉄道員の私が半年の休職を決めるまで
- 第2話 休職したらお金はどうなる?傷病手当金でいくら入ったかを正直に書く
- 第3話 休職中、何もできない自分を責めていた。半年間の過ごし方を正直に書く
- 第4話 「また折れるかも」を抱えたまま 駅員に戻った私の復職のリアル
この記事には休職と復職の経験が含まれます。休職・復職の可否やタイミングの判断は、必ず主治医・産業医の指示に従ってください。回復には個人差があります。

