運転士の仕事は、そこまできつくはなかったです。運転という仕事そのものは、とても楽しかったです。でも、一人で淡々とやるところが、私には合いませんでした。
私は駅員から車掌、運転士と進みました。本社勤務を経て、今は自分の希望で駅に戻っています。キャリアの流れ全体は、キャリアパスの記事(駅員→車掌→運転士→本社。鉄道会社のキャリアは一本道じゃなかった)に書きました。
この記事で分かることは3つです。
- 運転席で、ずっと何を考えていたか
- 緊張は、減ったのか
- 運転士に向いているのは、どんな人だと思うか
運転士の仕事の中身も呼び方も、会社によって違います。ここに書くのは、私ひとりがやっていた運転士の話です。操作や手順ではなく、何を考えていたかを書きます。
結論。運転席でいつも頭にあったのは、「安全に運行すること」だけだった
走り出してから着くまで、一番考えていたのは「安全に運行すること」です。
キャリアパスの記事で、「自分の後ろに、何千人ものお客様の命がある。その緊張感で毎日走っていました」と書きました。その緊張感の中身が、これです。
「だけ」と書きましたが、時間どおりに運転することも、頭の中の3割くらいは意識していました。残りの7割は、安全です。それ以外は、特に入っていません。安全に運転することが、一番の最優先でした。
自分に言い聞かせていた言葉があります。「お客様の命を守る」。
運転士は、ずっと時間のことを考えて走っていると思っていませんでしたか。そう思うのが自然です。私の場合は、違いました。
この記事では、その頭の中を、まず、ひとり・判断・緊張の順に書きます。
運転席に座ると、自分ひとり。「何か起きたら」をどうするか、毎回考えていた
常に、毎日、緊張していました。運転席に座ると自分一人だけだったので、何か異常が起きたときにどう対応しようかと、毎回考えていた記憶があります。車掌も知っていますが、車両について一番知っているのは、やはり運転士でした。運転士は実際に前で運転することで、その車両運行に関する全ての責任を負っている。そういう感じでした。
ただ、一人で全部を決めていたわけではありません。運行を管理している人に確認を取っていました。何かあっても、電話越しや無線越しに聞ける人がいた。そこはよかったと思っています。
キャリアパスの記事で、「運転席には一人で座ります。それでも、ずっと感じていたのは孤独ではありませんでした」と書きました。それは、今も同じです。全責任を負っている感じと、孤独ではないこと。この2つは、同時にありました。
ひとりで運転席に座る自分を想像すると、怖さのほうが先に来ませんか。怖くていいです。私も、毎日緊張していました。それでも、聞ける人はいました。
ひとりとは、全責任。でも、聞ける人はいる。それが、私の運転席の「ひとり」でした。
迷ったら「どれが一番安全か」。決めたら「それはそれ、これはこれ」
運転操縦に関わることは、自分で判断していました。天気の様子、ホームの様子、車両の様子。常に気をつけながら運転していました。どういうふうに運転するかは、自分でした。
判断に迷ったときは、「どれが一番安全か」を考えていました。
間違った判断をしたらどうしよう、と考えてしまいませんか。考えて当然です。私の場合は、迷ったら「どれが一番安全か」を選ぶ。そう考えていました。決めたあとは、迷わなかった。引きずらなかった。「それはそれ、これはこれ」でやっていました。
遅れていても、順番は変わらなかった
遅れを取り戻したい気持ちと、安全を守る気持ち。正直、両方ありました。でも最終的には、安全を意識しなければいけない。私は、そういうふうに思っていました。
よくある場面を、1つだけ。電車が遅れていて、この先で乗り換えの列車が待っている。少しでも早く着いて、乗り換えをスムーズにしたい。その思いはありました。ただ、安全が大事だったので、時間を気にせず、まずは目的地まで運転する。そう自分で思っていました。
緊張は最後まで減らなかった。中身は「ずっと後ろにお客様がいる」
運転席の緊張は、減るものではありませんでした。乗り始めてから運転が終わるまで、常に緊張していました。
減らなかった緊張の中身は、最初から最後まで「ずっと後ろにお客様がいる」でした。中身は、変わっていません。
車掌の記事で、車掌のドアを閉める緊張は最後まで減らなかったと書きました。結論は、同じです。ただ、車掌のときは、慣れていい緊張と消してはいけない緊張を分けていました。運転士のときは、分けていませんでした。常にお客様のこと、車両のことを気にしていました。
それでも、慣れてくると変わったことがあります。どこで体力を使い、どこで精神を使わなければいけないか。そのメリハリを、自分でつけられるようになりました。
乗務が終わって運転席を降りた瞬間は、「あ、終わった」という感覚です。
緊張が消えるまで、どれくらいかかるのかが知りたくなっていませんか。知りたくなるのは、自然です。私の場合、消えませんでした。消えないまま、メリハリだけついていきました。あなたの場合が私と違っていても、間違いではありません。
緊張は減らない。でも、きつくはなかった。その理由は、最後に書きます。
人身事故のあと、運転席に戻ったときも、頭の中は同じだった
運転士のとき、人身事故を経験しました。詳しいことは書きません。
運転席に戻ったとき、頭の中によぎったのは、とにかく安全に運転することでした。後ろには、たくさんのお客様がいます。私ができることをしっかりやる。それしか考えていなかったと思っています。頭の中は、それまでと同じでした。
私の場合、次に乗務した日は、特に何も変わりませんでした。体の反応も、特に変わりはなかったです。周りの人は、淡々と接してくれていました。その場所を最初に通ったときは、少し緊張しました。それ以降は、私は大丈夫でした。
もう二度としたくない。それは、キャリアパスの記事に書いたとおりです。経験したからこそ、運転士として経験が積めた。私は、そう思っています。
車掌の「一人」と、運転士の「ひとり」は違った
車掌の「一人」と、運転士の「ひとり」は、違ったと思います。
運転士のひとりは、上に書いたとおり、車両運行の全ての責任を負っている感じです。車掌のときは、運転士と協力して、というのが強かった気がします。責任の置き場所が違いました。
車掌の「一人」の中身は、車掌の仕事はきつい?ドアを閉めるたびに緊張していた私が正直に書くに書きました。
駅員・車掌の経験が運転席で役に立った、という感覚は特にありませんでした。駅、車掌、運転士。少しずつ仕事の系統が違うので、そこまで感じませんでした。
運転という仕事は楽しかった。でも、一人で淡々とやるところが、私には合わなかった
運転という仕事そのものは、とても楽しかったです。
ただ、日々の中で「楽しみ」と感じる瞬間は、車窓以外あまりありませんでした。車窓の話は、キャリアパスの記事に書きました。ぴたりと止まった日も、時間どおりに着いた日も、楽しさではなく、仕事としてやっていました。それでも、電車を運転するという機会には、なかなか恵まれないものです。本当に、やってよかった経験だと思っています。
合わなかったのは、一人で淡々とやるところです。合わないというのは性格的なものであって、仕事としてはとても楽しかったです。一人で黙々と仕事をするのが好きな人が向いているなら、自分はその逆でした。一人でやりつつも、みんなと楽しくワイワイしながら仕事をしたい。今も、そう思っています。
合わないと気づいたのは、乗り始めてすぐでした。それでも、合わないと思いながら乗っていた間、頭にあったのは、とにかくお客様を安全に目的地まで運ぶこと。それしか、考えていませんでした。
運転士を離れたのは、辞令で本社へ行くことになったからです。運転士の仕事に、誇りはありました。別の場所でも仕事をしたい気持ちは、前からあった。辞令そのものは、予告なく来ました。その受け止めは、キャリアパスの記事(駅員→車掌→運転士→本社。鉄道会社のキャリアは一本道じゃなかった)に書いたとおりです。
駅に戻って、地上で働いていると、何かあったらすぐ隣に聞ける人がいます。それが、楽しい。「戻ってきたな」という感覚が、強くありました。
「合わなかった」と読んで、がっかりしましたか。私の話だけで、あなたに合うかどうかを決めなくても構いません。
仕事は楽しかった。合わなかったのは、性格との相性。この2つは、別の話です。
これから運転士を目指すあなたへ。「きつい?」と聞かれたら
「きつい?」と聞かれたら、こう答えます。そこまできつくはないのではないでしょうか。私にとっては、体力的にも精神的にも、きつくはなかったです。緊張は減りませんでしたが、どこで体力と精神を使うかのメリハリは、自分でつけられるようになった。それが理由です。
車掌の記事(車掌の仕事はきつい?ドアを閉めるたびに緊張していた私が正直に書く)で、車掌は「きついと思います。特に、精神的にきつい部分があります」と書きました。運転士のほうが楽だった、という話ではありません。どちらがきついか、順番はつけられません。種類が違うだけです。
運転士に向いているのは、一人で淡々と仕事をするのが好きな人だと思っています。私が見た範囲での話です。私は、その逆でした。
人それぞれに、合う合わないがあります。それをしっかりと自分で認識して、その中で対応していくことが大事。私は、そう思っています。
自分はどちらのタイプか、今すぐ決めないといけない気がしていませんか。決めなくていいです。私も、答えが出たのは運転席に座ってからでした。ここに書いたのは、運転席での頭の中の、1つの例です。
キャリアパスの記事で、「一人で完結する仕事と、人と向き合う仕事。どちらが向いていそうですか」と投げかけました。この記事は、その問いへの、運転士の側からの私の答えです。
自分に向いているかを考えたいなら、駅員について書いた駅員に向いてない人はいる?現役駅員が感じた「しんどくなりやすい4つの癖」も材料になります。
今日やってほしいことを、1つ。
一人で黙々とやっていた時間を、1つ思い出してください。今日のことでも、前のことでも構いません。そのとき、楽だったか。それとも、誰かと話したくなったか。
答えは、心の中で。出なくても大丈夫です。どちらかが浮かんだら、それがあなたの材料です。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。合わなかったけれど、本当にやってよかった経験でした。
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この記事は個人の体験です。心や体の不調が続く場合は、我慢せず身近な人や専門家に相談してください。

